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大学教育のありようと「教養」の行方を追って(1)

更新日:2019年11月15日

 『AERA』(朝日新聞出版,2017年11月20日号)の連載ものの巻頭エッセイ「eyes」で,内田樹氏が日韓の学校教育が抱える問題にふれています。

 その一文のなかに興味を惹く箇所がありました。


 〜学校教育が抱えている本質的な問題は日本も韓国も変わらない。少子化,不登校,グローバル化,階層化など。とりわけ「グローバル化」と称して,換金性の高い「実学」領域と英会話能力開発に過剰な教育資源を投じる傾向は韓国にも見られる。教育成果が年収やコミュニケーション能力の差としてただちに数値的に可視化されることを「グローバル化」と命名している点では日韓ともに事情は変わらない。

 それが大学教育と研究環境をどれほど傷つけ,痩せ細らせたかは,日本の大学の学術的発信力の劇的な劣化(先進国最下位にまで落ちた)によって知られる。

 日本のメディアは伝えることを忌避しているが,昨年の秋には米の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」が,今年の春には英の自然科学ジャーナル「ネイチャー」が相次いで「日本の大学教育の失敗」と「日本の科学研究の停滞」についての長文の記事を掲載した。

 

 ここで取り上げられている「フォーリン・アフェアーズ」と「ネイチャー」の記事というのは,以下のような内容(一部抜粋)のものです。



「凋落する日本の大学教育――負の連鎖を断ち切るには」

(フォーリン・アフェアーズ・リポート,2016年12月掲載)

 

 日本企業の採用担当者からみれば,大学は人材を供給してくれる存在にすぎない。……日本の教育は,就職活動を軸に構成されていると言ってもいい。だが,教育システムは,(経済や社会の)ダイナミズムを強化する大きなポテンシャルを秘めているし,世界における日本の役割を擁護し,国内経済の躍動性を高めるうえでも,質の高い教育が不可欠だ。日本の大学は学生たちのクリティカル・シンキング(批判的思考),イノベーション,グローバル志向をもっと育んでいく必要がある。

(デビン・スチュワート:カーネギー倫理国際関係協議会シニアフェロー)



 「日本の科学研究はこの10年間で失速していて,科学界のエリートとしての地位が脅かされていることが,Nature Index 2017日本版から明らかに」


 Nature Indexによると,日本の科学成果発表の水準は低下しており,ここ10年間で他の科学先進国に後れを取っていることが明らかになりました。政府主導の新たな取り組みによって,この低下傾向を逆転させることができなければ,科学の世界におけるエリートとしての座を追われることになりかねません。

Nature Indexに収録されている高品質な科学論文に占める日本からの論文の割合は,2012年から2016年にかけて6%下落しました。中国の急速な成長の影響により,米国などの科学先進国が占める割合は相対的に低下していますが,日本からの論文発表は,絶対数も減少しています。Nature Indexに収録されている高品質の自然科学系学術ジャーナルに掲載された日本の著者による論文数は,過去5年間で8.3%減少しています。

 (中略)

 こうした全般的な低下傾向により,日本の若い研究者たちは厳しい状況に直面しており,フルタイムで働けるポジションも少なくなっています。日本政府の研究開発支出額は,世界で依然としてトップクラスであるものの,2001年以降ほぼ横ばいです。一方で,ドイツ,中国,韓国など他の国々は研究開発への支出を大幅に増やしています。この間に日本の政府は,大学が職員の給与に充てる補助金を削減しました。国立大学協会によると,その結果,各大学は長期雇用の職位数を減らし,研究者を短期契約で雇用する方向へと変化したのです。短期契約で雇用されている40歳以下の研究員の数は,2007年から2013年にかけて2倍以上に膨れ上がっています。

(大場郁子:シュプリンガー・ネイチャー,2017年3月22日)


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